喰女 -クイメ-

男と女、情欲の果てに

いつの時代も男と女の関係は奇々怪々としているもの。表面上は仲良くしていても、裏を覗けば既に関係破綻まで追い込まれているなんてことはざらだ。かつて働いていた飲食店の時も、クリスマスという日に店内で痴話喧嘩から別れ話に発展、それを無理やり聞かされていたと思われる隣の客に茶化されてカップルの男性がキレて喧嘩沙汰になろうとしていた、なんてこともある。リアルに見ていたので、ショッキングというよりはそんな話を公共の場でするなよと思うのが概ねの意見だ。出来ない理由も色々あるが、深刻な話ほど誰かがいないと出来ないという人もいるのかもしれません。

男女の間柄を他人がとやかくいうのはともかく、こうした異性同士の関係が知り合いから恋人、更に結婚という段階を踏んで漸く親密な間柄になれるわけですが、恋人から結婚までのステップアップで二の足を踏んでいるという人もいるでしょう。恋人ではなく、夫婦になってこれからも末永く暮らしていくことは非常に重い話だ。それを理解しないで『結婚』という発言はあまりに子供じみていると周りは糾弾しがち。学生時代にもいたが、将来は結婚すると豪語して結局別れたカップルもいた。そんな話を授業中こっそりと話していたのだが、真後ろで話されてたら嫌でも耳に入ってくる。色々あるのかもしれないが、そういう話はもっと場所を弁えて話してくれと毎度言いたくなる。

けれどこれらの関係がいつも円満に終了するわけではない、片方が片方に対して固執していた場合には更にややこしいことになる。中には飽きたから捨てる、といった理由で切り捨てようとする外道もいる。男が妻を捨てて別の女に走る、現代では女が男を何人とキープして遊びと称している、といった例も見かける。何が本当で何が間違っているのか、誰にも真相は理解できない。

そんな男と女、愛憎の果てに愛するが故、手放したくはないが故、狂気に走ってしまう物語もある。現実にもそうした話はあるでしょうが、あまりにセンセーショナルすぎるので、今回はそんな話を題材にしたホラー映画『喰女 -クイメ-』を題材にして見てみよう。

作品概要

2014年8月、当時もまた残暑厳しく猛烈な暑さに苛まれていた頃に公開された今作は見ていた人々を背筋から凍りつかせた。なにせ真の愛欲の果てに描かれる狂気が感じられ、暑さも忘れて見るもの全てを氷感させるほどの迫力が立ち込めているのです。それもそう、喰女の題材となったのは男女関係の果てに捨てられた女が男を呪い続けることになる話で有名な、四谷怪談がベースなのです。劇中でも四谷怪談に倣った世界観が投影され、やがて現実と虚構との境界線があべこべになり、その果てに待っていたの愛するが故の結末を迎えた。

感想を一言で述べるなら、『暑さを忘れたいと思うなら今作をじっくりと目を離さずに見ることを推奨します』とでもいうべきか。さて、そんな喰女についてもっと説明するため、簡単にあらすじから入って作品を考察していこう。

あらすじ

有名女優として活躍している後藤美雪が企画した舞台『真四谷怪談』に、彼女の恋人であり売れない俳優として活動していた長谷川浩介が主演となる伊右衛門に抜擢された。彼女の口利きでチャンスをものにした浩介と、公私ともに関係を良好なものにするため美雪の二人は舞台づくりに熱心になっていく。ただ浮気性かつ優柔不断な性格の浩介はやがて、同舞台で共演している朝比奈莉緒とみゆきの付き人である倉田加代子と男女の仲になってしまう。美雪にも鈴木順が言い寄るものの相手にしなかった。

美雪は浩介の浮気を知っていながら黙認してしまう、一方で浩介も自身を束縛する美雪をうっとおしく思い始めていた。そんな二人の関係は舞台の練習を重ねていくと共に、やがて階段の中で描かれる伊右衛門と岩とのような現実と虚構との区別が出来なくなるほど、没頭していく。やがて迎えた舞台日、その日に起こったことは誰もが予想していた結末へと誘われて行く。

市川海老蔵さん主演作

今作を見たとき、内容もそうですが個人的には主演を見たとき『嫌味か?』と思った。なぜなら主演はあくまで噂程度だが、かつては遊び歩いて自身の出自をまるで認識していないような放蕩ぶりを見せていた『市川海老蔵さん』だからだ。彼に対しては何かと黒い噂がつきまとっている、その中には真面目にやばい話もあるというのも囁かれていたものの、真実かどうかは分からない。歌舞伎役者の名門

に生まれ、役者名である『市川海老蔵』を襲名した11代目として日本の伝統芸能を継承する貴重な担い手だ。

正直な話、市川海老蔵さんに対して良い印象を抱いていなかった人が多いでしょう。素行の悪さは噂ではあるものの、それでも一般人目線でも人として尊敬できないと言われていた彼も改心したのが6年前のクラブで起きた事件があります。その事件は世間を賑わせ、あまつさえ事件があった翌日に懲りず飲みに出かけていたという事実まで判明。歌舞伎界でも、父親であり既に故人となっている12代目市川團十郎さんを始めとして厳しく受け止め、およそ1年の謹慎処分に課された。

その年は結婚もして所帯を持つ身でありながら、あまりに軽率だったと反省したのでしょう。事件から4年経過して公開された今作では、よほど懲りたのか放蕩ぶりがウソのような姿勢で芝居に打ち込む姿を見て、変わるものだなぁと思った。だからこそか、今作に対しては怖いという印象もあり、嘘偽りなく面白いと評価ができます。

男女の関係は

大本のネタバレは避けますが、今作は改心する以前の市川海老蔵さんの素行を物語っているとしか思えない展開を見せる。こんなことを言ってはあれかもしれないが、本人もそれを意図しているのかもしれません。映画は市川海老蔵さんが企画したものとなっているので、自身の体験談が盛り込まれているのかもしれません。そう考えるとシュールな話ですが、だからこそ結末にも納得ができる。不貞を働くだけ働いて、最後にはただただゴミのように捨てられてしまい怨嗟の念に囚われてしまうのも無理ない話だ。ある意味では貞子などのホラー作品とも共通しているかも知れません。

男女の仲が縺れれば縺れるだけいざこざが起きる、というのがよく分かる作品となっている。逆に言えば主演の方もいつまでも放蕩していたらこうなっていたという説得力が滲み出ているので、頑張ってくださいという気持ちも出てきた不思議な作品だ。

見ておいた方がいいホラー作品